GM初心者向けの失敗回避論

現在の所、TRPGにはGMが必要です。(一部GMレスをうたうシステムやギミックもありますが、プレイヤーを選ぶものです)
故に、GMをやれる人間はいくらいても困りませんし、いなければ業界全体が衰退します。ですがGMという行為は大変にめんどくさく難しいものに見えます。(そしてそれは半分当たっているのですが)これが人をPL専門からGMへと移行させる壁となっています。
GMはPLとは比較にならない労力を要します。そして、労力を要した分だけ成功したときの達成感は高く。失敗したときのダメージは大きいのです。
本稿は「これからGMをやってみよう」という方に対してその失敗を最大限に減らす為の方法論を提示するものです。

†基本方針
これから提示する方法論の基本方針は以下の三つです。
1。大成功を目指すのではなく、失敗を避ける
2。準備で補えるものは、準備でなんとかする
3。手を抜けるところは手を抜く
なぜこの三つを基本方針とするのか説明します。

1。大成功を目指すのではなく、失敗を避ける
TRPGは遊びです。楽しむための娯楽です。その娯楽に失敗すると、当然楽しくなくなります。
至極当然のことですが、高い成果を望めば望むほど物事の難易度は高まります。そして、初心者は高い難易度を攻略するだけの技術を持ちません。
なので、まずは簡単な所から始めます。「~~リプレイみたいなことしたい!」というモチベーションは、ひとまずガラスケースにしまっておきましょう。連中はプロです。彼らと同じ事がいきなりできると思ってはいけません。

2。準備で補えるものは、準備でなんとかする
GMという行為はPLに比べて多大な労力を必要とします。特にプレイ時は複数人のPLに対して、基本的に一人で対処する必要があります。そして、プレイ時にGMの能力を労力が越えたとき、だいたいの場合大きな停滞が生じます。下手するとセッション自体が破綻します。
というわけで、プレイ時の労力はできうる限り減らしておくべきです。それを事前の準備で減らせるならばそれに越したことはありません。

3。手を抜けるところは手を抜く
さて、さきほど労力の話をしました。至極当然のことですが、労力が少ないことの方が難易度は低いです。難易度が低ければ失敗しませんし、何より楽です。TRPGの目的は遊ぶことなので、それが楽であることは正義です。
さて、以上の基本方針をふまえた上で具体的な方法を提示していきます。

†具体的な方法
1。メンツを選ぶ
セッションの成否はGMの技量も多大に関係しますが、PLも重要な要素です。とくにTRPGという遊びは構造的に悪意に弱いものです。要するに「PLにセッションを破綻させる意図があれば、まず間違いなくそれは成功する」ということです。
ですので、まずこの要素を取り除きます。要するに知ってる人間をプレイヤーにします。知ってる上でいいプレイヤーだと感じた人を集められれば最高です。
それができない、コンベンションでしかプレイできる環境がない人は、サブマスターを利用してみるのはいかがでしょうか。絶対孤独の戦いをしないですむという安心感だけでも物事は上手く進むものです。

2。システムを選ぶ
これは、自分が一番熟達しているシステムを選ぶべきです。ルールの運用、流れを知識ではなく体験で理解しているというアドバンテージはほかに換えが効きません。
熟達以外に判断すべき材料としては、「PCが即死しない」「曖昧な部分がすくない」「データが多くない」などのシステムを選ぶとよいでしょう。
「PCが即死しない」の何が重要かというと、シナリオ途中でのPCの事故死が防げます。シナリオ途中で誰か一人が死んでしまうと、そのセッション中該当PLのみが暇を持て余すことになってしまいます。また、うっかりデータバランスをミスったときもPC側がリソースを吐き出しまくれば何とかなるギミックが多いのも特徴です。
「曖昧な部分がすくない」これはGMが解釈判断すべき事が少ないという事です。労力の低減は正義です。
「データが多くない」も上記の理由と同じですが、これはやりかた次第で減らせます。その手段も後述します。

3。シナリオを作らない
シナリオの作成はとても労力を必要とする行為です。そのうえ、難しいものでもあります。
ですので、シナリオを作るのはすっぱりあきらめましょう。世の中にはプロの作ったシナリオ集や、有志がネットに上げたシナリオがあります。もっとも素人作成のシナリオは身内に特化している可能性がありますので、そのシナリオをプレイしているレポートなどがあるか吟味してから使用しましょう。シナリオレギュレーションは基本ルールブックだけで遊べるものを使用します。これは使用するデータを減らす為です。
もしも失敗してもシナリオのせいにできるので、精神的な負担も少ないです。

4。準備する
シナリオはありものを使用すると明言しました。ではシナリオ関係で何も準備しなくていいかというと、そうではありません。シナリオ関係の情報を抜き出しておきましょう。特に敵のデータは別に抜き出しておけば、いちいちルールブックを占領しないですむので戦闘時の処理が楽になります。敵のデータは使用する特殊能力の詳細や使う魔法のチャートなども抜き出しておくと戦闘が本当に楽になります。理想は「一枚の紙をみればその戦闘で必要なデータが完結する」状態です。
情報が重要になるシナリオでは、PLに渡したい情報をあらかじめ紙片に書き出しておくと、それを渡すだけですむので楽です。
次に、プレロールドキャラクターを用意しましょう。PLにキャラ作成をさせるのは非推奨です。これは、想定外のキャラデータが起こす事故を回避するための措置です。大概のゲームにはサンプルキャラがあるので、それを使うのが一番簡単ですが、なければ自作しましょう。シナリオを作るのに比べれば大した手間ではありません。このデータ作成には基本ルールブックのみを使用しましょう。サプリメント等を使用すればその分把握すべきデータが増えてしまいます。
そしてこれは可能であればですが、ルールサマリーを自作しましょう。ルールブックの該当部のコピーではなく、自作することがおすすめです。
なぜか。これはサマリーという結果よりもサマリーを作るためルールブックを読み込み理解するという課程が重要になります。カンニングペーパーを作ると内容を覚えてしまうという現象ですね。
後は当然ですが、キャラクターシートに準ずるシート類や駒なども準備しておきましょう。

5。セッションする
さて、実際のセッションに入ります。
GMというのはやることは多岐にわたりますが、PLに見える機能としてはほぼ一つです。
それは説明です。
ルールの説明、データの説明、状況の説明、NPCの反応の説明、行為の結果の説明、等々の積み重ねがGMの機能です。
シナリオがなくてもセッションが回せるという特殊技能者が時折います。極端にいいますと、彼らはこれらの説明を準備なしに行うことができるのです。脳内の演算結果をノータイムで出力できるとでもいいましょうか。むろんこれは膨大な経験が生み出す無意識下の思考の結果なので初心者には無理です。
ですので、準備した結果にそって説明を行っていきましょう。そして、PLの行動が予想外だった場合、ためらうことなく「ちょっとまって、考えさせて」といいましょう。
即答するというのは、基本的に考えずにしゃべってるということです。しゃべる前に考えることは決して悪ではありません。
また、与えた情報に誤解がないか、PLの会話に耳を傾けておきましょう。TRPGは会話によって進むゲームですので、構造上誤解が生じやすいです。誤解した情報をもとに選択した情報はセッションを破綻させうるものです。
手間だと思わないのであれば、GMを含めた全員で情報を共有できるシートやホワイトボードがあるとかなりの精度で誤解が防げます。
その上で、セッションがシナリオ想定外の方向に向かった場合、対処としてはおおむね二つに分かれます。
一つは、PLに想定をぶっちゃけた上で元の流れに戻すための相談を持ちかけることです。これは初心者であることを免罪符にした甘えですが、その場をしのぐだけなら有効です。「ああすればよかった」は、セッション後の食事会か何かでやりましょう。冷えた頭じゃないと分析もできませんので。
もう一つは、元のシナリオをさっくりと諦めることです。その結果ミッションが失敗してしまっても、仕方がありません。TRPGはゲームです。ゲームである以上失敗することはありますし、初心者ならむしろ失敗があって当然です。ていうか、プロでも失敗します。
失敗したときに一番危険なことは、無理にセッションの方向性を戻そうとしてパニックを起こすことです。デザイナーがGMを務めた某有名システムの公式リプレイで、三回ほどPCが死んだことがあったのですが、そのすべてのケースでGMは事態収集のためにルールの適用ミスを侵しています。
プロですらこうです。ましてや初心者では、元に戻そうとする勢いでまた別の方向にシナリオがそれることも多々あります。強引な修正でシナリオを戻すぐらいなら、さっくり諦めて休憩をとりましょう。で、休憩時間で頭を冷やしつつ、今後の展開を考えましょう。とりあえず最後に戦闘すれば、PLはなんとなく「あ、終わったんだ」という気分になります。思いつきででっち上げた黒幕に本来のボスのデータを流用しても、PLが困るわけではないので何食わぬ顔で使い回しましょう。

†最後に
いろいろと細かいことをいいましたが、これだけやっても失敗するときは失敗します。
その時は、迷わず「お前の記事のせいで失敗したじゃねーか」と責任転嫁してください。
だれだって最初は失敗します。その不満や恐怖のはけ口として本稿が使用されたなら、本望です。